社会福祉法人 京都ライフサポート協会
理事長 樋口幸雄
2018年12月
一人ひとりの心に届く支援を
月刊誌「さぽーと」2018年12月号 --- 巻頭コラムに掲載されました。
アメリカで、精神病・精神薄弱に関するケネディ大統領教書に発達障がいという文言が使われた1960年代、日本の障がい福祉の分野では混沌とした状態が続いており、1961年には日本初の重症心身障害児施設として、島田療育園(現島田療育センター)が開設されました。それから遅れること10数年、同園で働き始めた私は、”動く重症児”(当時の呼称)の棟に配属されました。その後45年近く、自閉症・発達障がいのある方々と一緒に時を過ごしてきました。この間、2005年の発達障害者支援法の施行など、発達障がいを巡る目覚しい施策の進捗もありましたが、果たしてそうした施策や私たちの支援が当事者の方々に「本当にプラスとなって届いているだろうか?」と自問する日々でもありました。
科学的知見が次々と明らかになる中、発達障がいの捉え方は時代と共に変化しています。自閉症・発達障がいのある方々への支援については、多様な論拠に基づく実践が積み重ねられてきました。しかし、一人ひとりに遍くいい支援が届いているかと言えば、まだまだ程遠いのが現状です。「いい支援に出合う」ことがまるで「宝くじに当たる」ことに、いまだ例えられるほどです。
私共の法人では、”当たり前”とは程遠い状況に疑問を感じ、必要な環境を整えていく毎日を繰り返す中で、現在の”横手通り43番地「庵」”に辿り着きました。
〇安心できる暮らしの場 ⇒ 自立していると本人が自覚できる場
〇日中の充実した暮らし ⇒ 働いていて得られる有用感
この2つの事柄は、おそらく誰にとっても必要な土台ではないかと思います。
現在、「庵」では、京都式強度行動障害集中支援モデル事業を実施しています。そこで見えてくる強度行動障がいのある当事者の方々は、まだまだ変われる伸び代を持っている人たちでした。言い方を変えれば、「生きづらさを解消したい」「伸びたい」という強い思いを持っておられる人たちであったということです。ボタンのかけ違いで生じた著しい不適切行為が周りの支援を遠ざける力として作用し、ますます自分自身が追い詰められていくという様子が見て取れました。3か月間を1クールとするこの事業は、有用感が持てる仕事と構造化された暮らしの場において専門的な支援を提供するものです。当該事業の対象者は、そこで暮らし、働いている利用者の皆さんとのグループダイナミクスによって、失っていた「自信」を取り戻す糸口を、自ら見出し、地域に帰って行かれます。
今年度は第5期障害者福祉計画および第1期障害児福祉計画が始まったところです。さらに次期報酬改定に向けて、「人口減少に伴った持続可能な福祉サービスを!」との掛け声の下、特に総量が大きい施設入所支援、生活介護や就労継続B型の質の評価と報酬をリンクさせるという難題に国が踏み込もうとしている状況です。こうした機会にこそ支援のあり方を見直し、すべての施設・事業所で一定の水準を保った、より質の高い支援を提供する契機にしなくてはなりません。
一つの療法や方法論に拘泥するのではなく、最新の知見やいろいろな情報に触れながら、一人ひとりの心に届く、いい支援を創造していきたいものです。